入院患者の”呼吸困難のミカタ” 〜NPでの学びを看護に繋げる〜
入院患者の、、、とまとめましたが、救急・外来でも使えるネタをまとめてみました。
呼吸の観察といえば、呼吸数、性状、SpO2、、、等ありますが、呼吸器症状のある方の観察となると、それだけには終わりません。
今回は総合診療科NPが臨床で学んできた”呼吸困難のミカタ”についてまとめたいと思います。
SpO2を過信するな
SpO2モニターの特徴
今や臨床には欠かせない、第5のVital Signといっても過言ではないSpO2。
動脈血の酸素飽和度を簡便に計測でき、病院だけでなく在宅でも簡便に呼吸状態を評価するのに用いることができます。
導入後、体温計・血圧計のように利用を始めた看護スタッフも少なくないと思いますが、今一度SpO2モニターの特徴についておさらいしたいと思います。
まず、SpO2モニターは動脈血の赤色の度合いを見て、酸素飽和度(酸素に結びついたヘモグロビンの比率)を見ています。
生体に照射された光は、血液以外の組織層、動脈層、静脈層を通るなか、各層で吸収を受けセンサーに届きます。この光の変化を構成定数がうんちゃらかんちゃらでSpO2(%)として表示されます。
したがって。SpO2を正しく表示するためには、その変化を確実に拾ってもらうよう、センサーが脈拍を安定して感知する20〜30秒装着状態を続けて読み取る必要があります。
余談ですがパルスオキシメーターは昭和49年(1974年)に日本光電工業株式会社の(故)青柳卓雄、等によって発明されたものです。
ただSpO2が低いからといって、その人は異常なのでしょうか?
SpO2は低いから異常?
上記左の写真はSpO2:87%。PR:96回/分を示しています。
これは異常ですか?
測定時は上記右の写真にいました。
ADL自立。自覚症状はなく、余暇で登山をしている最中です。
場所は富士山です。
高度が高いと酸素濃度は薄くなリます。
富士山(3,776m)では平地の3分の2.
エベレスト頂上(8,848m)では平地の3分の1程度しかないと言われています。
酸素濃度が下がると、ヘモグロビンと結びつく酸素も減ります(SpO2低下)
ここで症状(高山病)が出るかどうかは個人差、及び標高をあげる速度が関与してきます。
言い方を変えると、標高が高い場所でSpO2が低くても、大丈夫な人は大丈夫ということです。
しかし通常診療で、高地で診療することは少ないため、SpO2がいつもより低いと”異常”と判断します。
ではSpO2高ければ正常という判断でいいのでしょうか?
SpO2は高ければ正常?
CASE:30y.o. F
急性発症の呼吸困難を訴えています。
熱はなく、明らかな既往歴もありません。
呼吸はハァハァしており、呼吸数は28回/分
”過換気じゃない?様子見でいいよ”
と判断することもあるかもしれません、、、
病歴で経口避妊薬(OC:ピル)を長期内服されています。
余談:経口避妊薬と呼吸困難
知るひとぞ知る経口避妊薬(OC)は血栓症リスクがあがります。
機序として、低用量ピルは卵胞ホルモンと黄体ホルモンが配合されているホルモン剤なのですが、卵胞ホルモンには血液を固まりやすくする作用があります。通常なら体内でバランスを取るのですが、OC内服でバランスをとることが難しくなるため、血栓症リスクを高めてしまいます。
非内服者と比べ深部静脈血栓症では3〜5倍のリスク
虚血性脳卒中リスクは2倍に増加します。
また虚血性心疾患リスクも増加し、生活習慣病が併存していると、その分リスクは跳ね上がります。
ここまで来ると、”SpO2が高いから大丈夫!”という前にまだまだ確認しておかなければいけないことがありそうです。
ちなみに日頃よりお世話になっている柴田先生(淀川キリスト教病院 産婦人科)の先生がまとめられた本に上記の語呂合わせが記載されていました。
この辺りも網羅して、大丈夫?だいじょばない?を判断する必要があります。
呼吸困難の評価:OPQRSTAでチェック
今回のテーマは”呼吸困難”です。
SpO2と合わせて(SpO2を測る前に)どのような評価を行う必要があるのかまとめてみます。
ABC approach
まずはABCからアプローチします。
これはBLSと同じですね。
軌道の問題はないか?呼吸の問題はないか?循環はどうか?
もちろん呼吸停止・循環停止をきたしていれば緊急コールです!
余談ですは、気道閉塞と気道狭窄は違います。
気道閉塞は完全に気道が閉塞されているため、上記画像左のChoking Signが見られます。
気道狭窄は、気道が狭くなっているので、一生懸命呼吸をします。そのため上記画像右のTripod Positureが見られます。他に流涎が増える(唾液が飲み込めない)などあったらやばいです、、、。
めっちゃ余談ですが
知るひとぞ知る”んがぐぐ”ですが、これはたぶん気道閉塞を起こすリスクが高いため、じゃんけんに変わりました。
自覚症状は“OPQRSTA”でチェック
OPQRSTは疼痛評価でよく用いますが、呼吸困難んでも用いることで、症状の詳細を知ることができます。
特に急いでいるときはO:Onset とT:Timeを先ずは確認します。
Sudden-onset(急性発症)の場合はRed Flugのことが多いので緊急対応です!
ちなみに前記したCASEもSudden-onset(急性発症)でしたね、、、
呼吸困難のフレームワーク:ABCDEG approach
緊急性、呼吸困難の詳細の次は、原因検索です。
これは私の元チーフである森川先生(私立奈良病院 総合診療科)より教えていただきました。
数ある鑑別疾患をフレームで整理し、網羅的に確認していきます。
入院患者、かつ看護師が介入しそうな状況については赤字にしています。
異物については誤嚥→窒息があるあるじゃないでしょうか?
また先程のCASEの項で記載した経口避妊薬の副作用である、虚血性心疾患や肺塞栓、意外と見落としがちな貧血進行や逆流性食道炎など渡ります。
検査をしなければわからないよね?
と言われそうですが、まだまだ看護師が攻めれる部分があります。
呼吸困難:病歴のキーワード
症状と疾患は全て同じではなく、それぞれの疾患にはその疾患らしい症状の特徴があります。
その特徴を捉えるか、確認できるかで次のステップが大きく変わってきます。
これらの特徴は“OPQRSTA”で合わせてチェックすることで、早期より網羅的な確認ができ、原因に沿ったケア・キュアの提供につながります。
最後に
便利な世の中になり、今では家庭にいる一般の人がSpO2モニターをAm●z●nで手に入れ、確認できるようになりました。
医療者は数値が高い低いだけではなく、機械の特性、SpO2の意味はもとより、SpO2バイアスに振り回されることなく、患者と症状に向き合っていただきたいです。
決してSpO2が低いからケアするのではなく、呼吸器症状を有した患者さんにケアを行ってくだされば幸いです。